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大阪高等裁判所 昭和41年(う)1639号 判決 1966年12月09日

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、被告人本人、解任前の国選弁護人中西義治並びに弁護人鈴木正一がそれぞれ作成した各控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用する。

論旨はいずれも原判決の量刑不当を主張するのであるが、職権で調査すると、原判決は、罪となるべき事実として、被告人が単独又は共謀の上昭和三九年一一月一九日ごろから同四一年一月二二日ごろまでの間添付犯罪一覧表記載のとおり三六回にわたり他人の財物を窃取した旨の事実を認定しているが、原判決添付の犯罪一覧表記載の犯罪事実と被告人に対する各起訴状記載の公訴事実とを対照すると、原判決は、昭和四一年二月一九日付起訴状記載の公訴事実である二個の窃盗についてなんらの判断をしていないことが明らかであるから、原判決には審判の請求を受けた事実について判決をしなかった違法があるといわなければならない。そればかりでなく、原判決の挙示する各証拠を調べてみると、原判決は、その添付する犯罪一覧表番号7、12から17、22、26、27、29から36の計一八個の窃盗(昭和四一年六月一〇日付起訴状記載の公訴事実)を認定した証拠として、被告人の自白を内容とする被告人の原審公判廷における供述と被告人の司法警察職員並びに検察官に対する各供述調書とを挙示しているだけで、右の自白を補強する証拠を挙示していないことが明らかであるが、更に記録を調査すると、右各事実に対応する被害届又は司法警察職員に対する供述調書について証拠調が行われていることが認め得られる。有罪判決の理由として、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないことは、刑訴法三三五条一項の明規するところであって、同条項にいう証拠の標目としては、罪となるべき事実を認定するに必要かつ十分な証拠を挙示しなければならないことは当然の事理に属する。そして、同法三一九条二項により被告人の自白を唯一の証拠として有罪の認定をすることができないのであるが、原判決のように、その認定した罪となるべき事実の証拠として自白のほかにこれを補強する証拠を掲げていないのは、前記三三五条一項の要求する有罪判決の理由として不十分であるから、原判決には、結局、理由を附さない違法があることに帰するといわなければならない。

よって、量刑不当の論旨に対する判断を加えるまでもなく、刑訴法三九七条一項、三七八条三号前段、同条四号前段により原判決を破棄し、同法四〇〇条により本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 竹沢喜代治 浅野芳朗)

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